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2007/09/02

「かりん」といた敦賀。

Img_0622金ヶ崎緑地には、敦賀港に突き出た、船の舳先を模した木製のデッキがある。

休憩所の管理をしている山藤(仮名)は先ほどから舳先で、一人で海を見ている若い女性が気になってしかたがなかった。

春まだ遠い、雪まじりの冷たい雨の降る夕方のことである。

山藤は「もしや・・・自殺・・・」悪いことだけが頭に浮かぶ。

思いきって声をかけてみた。

「こんにちは。観光ですか?」
「ええ。敦賀の海を見に来たのです」

山藤は「ここは寒いから」と休憩所に案内した。

こういう文章苦手。文体を変える。
彼女は東京から一人で新幹線と北陸線を乗り継いで敦賀にやってきたのだという。
絲山秋子の「海の仙人」を読んだらどうしても敦賀に行きたくなったらしい。

一昨日、金ヶ崎緑地へ「地球と握手」のモニュメント撮影に行った際、管理のおじさんがこの女性の話をされた。おじさんはこの女性を見かけたときから、もしかしたら自殺するんじゃないかと思って、とても心配していたということだ。

先の文章は適当に僕が脚色したものだし、細部、いや多くの部分で違っているかもしれない。「オイオイ、フィクションかよ!」などと言われると困るのだけれど、事実です。たぶん。

絲山秋子は僕がよく読んでいたNAVI(二玄社)にも執筆されていたこともある。何度か芥川賞を逃し「次は絲山さんの番ですよ」となぐさめのコトバを思いだす。
だからといって僕が絲山さんの小説をまともに読んでいたわけじゃない。

今回「海の仙人」を読んだ。(新潮文庫版で159ページ。)
小説の舞台になっているのは敦賀市。
物語は主人公の河野勝男が国定公園若狭湾・水晶浜の砂を持ち帰ろうと(要するにかっぱらうこと)している部分から始まる。ま、そのことは重要なことではい。長くなるのであらすじは省く。(興味のある方は読んでいただきたい)
職場の同期だった「片桐」という女性と敦賀で出会った恋人「かりん」。この世のものではない居候「ファンタジー」の織り成す物語。
後半の「かりん」の死ではグッとくるものがあるが、河野の子供の頃の体験がトラウマになりセックスレスになると言う設定は、やや取って付けたような不自然さがある。河野の心の動きも、男の僕から見れば不可解な部分があり距離を感じてしまう。

絲山さんは車好きなので、敦賀周辺を走り回り取材されたのだろう。なかなか詳しい。ただ一カ所理解できない部分がある。
16ページの「二人が気比神宮を背にして信号を待っていたとき・・・」これは車で信号待ちのシーンだが、気比神宮を背にして信号を待つのは物理的に不可能。小説だからべつにいいんだけれど、現地で同じシーンを描く場合違和感がある。もちろん話の都合上「敦賀駅のそばの病院」などは実在しないが構わない。

初冬の気比の浜に行けば、波の音に混ざり勝男のチェロの音が聞こえてきそうだ。
海を見れば元気になるかどうかは解らないけれど、ふと海が見たくなる時がある。そんな時、敦賀の海を見に来て下さい。
「海の仙人」を持って・・・。

追記/解説を文芸評論家のFさんがお書きになられている。一カ所間違いがある。
「敦賀の水晶浜で泳いでる河野勝男のところに・・・」の部分。水晶浜は美浜です。
小説では「敦賀半島の西側に500メートルにわたって広がる」となっています。地図を見ればわかりますが、敦賀半島は東側が敦賀市、西側が美浜町となっています。小説のどこにも「敦賀の水晶浜」という表現はありません。
絲山さんはこの水晶浜から見える景色を文中では「黄色っぽい岩場の向こうに立つ美浜原電の・・・」と表現しています。
文芸評論家たるものしっかり読んでいただきたいものです。
「敦賀半島にある水晶浜」とすべきですね。

余談ですが冒頭の管理人のおじさんは、さっそく市立図書館で「海の仙人」を読もうと思ったのですが、見あたらないので司書に聞くと知らなかったそうです。ちょっと呆れてしまいます。

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コメント

偶然ですが、一昨日、マンガを買いに近所の書店に行ったとき、新潮文庫のコーナーに平積みされてたのを立ち読みしました(^_^;)
敦賀市立図書館にもあるようなのに、職員の方が知らなかったというのは、勉強不足ですね…。

投稿: まちこ | 2007/09/02 22:47

ホント偶然ですね。
見た目が薄いので立ち読みをはじめたのですが、数ページで腰が痛くなり断念。
もともと文章理解力にはかなり問題があるので、速読など出来なくて数時間かかります。

水島のあたりまでドライブしたくなりました。

投稿: プル | 2007/09/02 23:52

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