パンを齧りながら。
桜が今にも咲きそうな本陽気。「本陽気」ってどういう意味だ。
NHK朝ドラ「ちりとてちん」で「愛宕山」の一節に「菜種の花が彩っていようかという本陽気」という部分があるけれど・・・。
そんな暖かい春の日射しの日曜日、神社の石段にすわって昼食のパンを齧(かじ)っていた。
戦時中に疎開していた旧制第二高等学校の学生が、この石段の3段目でよく本を読んでいたという話を以前父に聞いたことがある。(当時、父は旧制中学生)
その学生は母親と二人で父の家の納屋に住んでいた。
夕方になると七輪から煙が上がっていた。
田んぼで草取りの仕事(今でいうところのアルバイト)をしているのをみかけることもあった。
みんな貧しかった。
食べ物をわけあってひっそりと暮らしていた。そんな時代。
何ヵ月か納屋に住んでいてその後郷里へ帰ったのか?
一度何かを送ってきたと聞いたけれど、その後音信は途絶えたという。
戦争に駆り出されて亡くなったのか。その後のことは何も分からないけれど、今、僕がパンを齧っているこの石段に彼が座っていたのは確かなこと。
ヒンヤリとした石の感触と、周りの深い緑と古木に囲まれながら、彼がここで何を思い、考えていたのか分からない。でも木々の緑の間から見える日本海の水平線の位置は当時も今も変わらないはず。
そして空腹だったはず。
木々の葉がサラサラと音をたて、鳥がさえずっている。
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