スイカ。
昭和30年代夏。
保育園の窓から見える道路を、鉱山から砕石を運んでいるダンプカーが埃(ほこり)をモウモウと上げながら通り過ぎていく。
午後三時。ドーン!という音がして遠くに見える鉱山から白煙が上がる。定時のハッパだ。
園児は昼寝を終えおやつを食べて家人の迎えを待つ。皆がみんなお迎えがあるわけじゃない。トボトボ歩いて帰る者もいる。
通り雨があったのに赤土を含んだ道は既に乾いていて、埃が足にまとわりつく。
デコボコ道のいたるところの窪みには、近くで刈り取られた草が押し込まれている。
ダンンプカーに踏まれた草は雨と泥と自らの体液が絞り出され、青臭い腐臭を立ち上らせている。
道路脇の畑には埃をかぶって白くなったほうき草やトウモロコシ、瓜やスイカ。
道際の蔓(つる)が無惨にもいたるところで車に轢かれている。
人の頭より大きなスイカが「僕を蹴って」と訴えている。
ソレーッ!ポンと蹴飛ばした。ボン!という音がしてパックリ割れ赤い実が見えた。
怖くなって走った。
「私の息子をこんな姿にしたのは、だあれだー!息子を返してくれ〜!・・・」割れたスイカを持って泣きながら母親は村中を回った。
気の毒である。
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